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バーガンディ・バイヤー アダム・ブラントゥレットによる 2020ヴィンテージ・レポート

Burgundy 2020 Vintage Report by Adam Bruntlett
バーガンディ・バイヤー アダム・ブラントゥレットによる 2020ヴィンテージ・レポート

 

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2020 Burgundy Vintage Report by Adam Bruntlett

2020年は、ブルゴーニュ史上記録的な早さで収穫が行われたヴィンテージとなりました。多くの生産者にとって、熱波の影響を受け苦労した2003年よりもさらに早く収穫を始めています。しかし、当地に於ける5週間に渡る試飲の結果、2020ヴィンテージは、2003ヴィンテージのワインとは似ても似つかぬものになっていることが明らかとなりました。

8月下旬、太陽のもとで収穫された、暖かく乾燥したヴィンテージです。驚いたことに、どちらの色にも驚くほどのフレッシュさとピュアさがあります。さらに、品質のレベルは間違いなく、2019年よりも明確に表現されています。数多くのセラーでの試飲を重ねることによって、私たちの懸念は、ワインに宿るエネルギーによって払拭されました。

白はクラシカルなスタイルで、いずれも高い品質を魅せています。多くのワインは、素晴らしい2017ヴィンテージを彷彿させる品質を誇ります。2020年のシャルドネは、求められる需要には僅かに足りないものの、満足の行く収穫量が確保されています。 赤は、乾燥した天候がピノ・ノワールを凝縮させるのに効果的でした。そのため、ブドウはよく熟し、糖度も高い割には、酸も非常に高く、バランスのとれたワインとなっています。 


IN THE VINEYARD
生育期は、ほぼ完全にロックダウンの時期と重なりましたが、暖かく乾燥した気候に恵まれました。英国にいる私たちは、屋外での食事を楽しみ、セラーの整理に励む一方、生産者たちは、私たち業者の訪問や試飲に煩わされることなく、ブドウ畑での仕事に気兼ねなく集中出来た様です。 近年の傾向として、冬は暖かく、芽吹きも例年より早く始まりました。早朝に霜の心配をされたものの、被害は比較的抑えられています。その中、シャブリでは、一部に約10%の収穫量を失ったと指摘する人もいます。5月中旬からは、気温が上昇し、開花が早く始まったものの、その後の寒波により、そのペースが落ち、ピノ・ノワールの収量減少の一因にもなった可能性が残りました。 夏は暖かく、シーズンを通じて乾燥していました。7月中旬にシャブリを訪れた際、生産者は雨不足に少し不安を覚えつつも、元気な様子でした。丈夫なシャルドネは順調に育ち、病気は白赤共に問題はありませんでした。重要なことは、極端な気温の上昇が少なかったことです。実際、7月は20℃台後半だった気温が、8月上旬には30℃台半ばの気温が一時的に続きましたが、2003年とは対照的に、温度計が40℃を超えることはありませんでした。また、生産者によると、夜は涼しく、これによって収穫期の果実には良いレベルの酸をもたらすことが出来たとのことです。 また8月には少し雨が降ったことにより、特にシャブリに恩恵を与えることが出来ました。しかし、幾つかの区画では水不足のストレスに悩まされることになります。結果として、より繊細なピノ・ノワールにはその影響を与え、当然のことながら、殊に浅い砂利質土壌のブドウの樹は、深い粘土質土壌に比べて水分の蓄えが少ないこともあり、その影響を受けるものもありました。

AN EARLY HARVEST
マコネとコート・ド・ボーヌでは8月20日頃から収穫が始まりました。コート・ド・ボーヌでは、収穫量が少なかったため、黒ブドウが白ブドウより先に熟す結果となりました。また、ヴォルネイの様な早熟の村から行われましたが、それらの地域では、天候は暖かく、収穫の始めと終わりの間に糖度が急上昇したと報告されています。特に赤ワインは、早く収穫して糖度を低く抑えるか、遅く収穫してタンニンを熟成させるか、アルコール度数を高くするかという選択を迫られています。 コート・ド・ニュイでは、一部の生産者が9月上旬には収穫を始めるなど、一部、アリゴテを除いて9月中旬までにはほとんどの収穫を終えています。果実は健全で、縮んだり焦げたりしたブドウの報告は殆ど見受けることはありませんでしたが、多くの生産者は果汁の収量に失望しています。果皮が厚く、液体が少ないため、1樽に詰めるブドウの重量が通常のヴィンテージより平均10〜15%少ない結果となったからです。 糖度は、全体的に良好で、過剰でもなく、全体的に2019をやや下回る程度に収まっています。アルコール度数についても、白は12.5〜13.5%のものが多く、赤は13〜14.5%とやや高め。ワインの重要な要素は、酒石酸のしっかりとしたバックボーンの上に築かれた、生き生きとしたフレッシュさにあります。そして、マロラクティック醗酵の際、リンゴ酸が、よりソフトでクリーミーな乳酸に変換されるのですが、2020ヴィンテージは、2018、2019よりも比較的低いことで、ワインに爽快なフレッシュ感を与えることとなりました。一方、ワインの安定感が、非常に低いpHレベル(白:3.1または3.2程度、赤:通常3.4~3.6)によってもたらされています。 

IN THE CELLAR
このヴィンテージは、リンゴ酸のレベルが低く、マロラクティック醗酵が遅かったものもあったにも関わらず、セラーでは数値的にもピュアなもの多かったと報告されています。その為、ワインの醸造過程に於いて、瓶詰前のワインに調和をもたらすことを目的に、一般的にほとんどの生産者が、エルヴァージュ(熟成)を長く行う傾向にあります。したがって多くのワインは、通常より遅く瓶詰めされ、特に赤ワインはその仕様が高くなっています。 赤ワインでは抽出が重要視されています。厚い果皮は色とタンニンを簡単に与えてくれます。実際、多くのワインは驚くほど深い紫色をしており、シラーによく似ています。思慮深いワインメーカーは、このことを認識し、それに応じて醸造方法を調整しています。多くのワインメーカーは、パンチングダウンを減らすか行わず、代わりに穏やかなポンピングオーバーを選択していました。 全房醗酵の選択は様々ですが、生産者の中には、より軽い抽出、ミネラルの新鮮さ、そして若干のアルコール度数の減少のために、この年はより多く醗酵させるべきと考える人も少なくありませんでした。栽培期間が短かったため、茎があまり熟していないと感じたか、ワインを脱酸させるリスクを避けたかったかのいずれかの理由に拠ります。興味深いことに、好みによりますが、どちらのアプローチも良い結果をもたらした様です。

HIGH QUALITY WHITE WINES
白の品質は非常に高く、いずれも間違いありません。スタイル的にも、バランス、品質、熟成の可能性という点でも、2017年を彷彿とさせます。最良の例(沢山ありますが)は、その傑出した白ワインヴィンテージさえも凌駕しています。シャルドネは、比較的丈夫なことで知られ、ほとんど何処でも育つことが出来そして成長します。旱魃の状況にも関わらず、収量は概ね最大需要量を若干下回るに留まり、1ha約45〜50hlの収量を確保しています。

ワインのバランスは素晴らしく、酸は爽やかでしばしば刺すように感じられ、アルコール度数は、ほとんど13.5%以下を示し、果実味は柑橘系と白い果実のグループにしっかり収まっています。2019は、個々の品質レベルとアペラシオンの関連性が曖昧になることがありましたが、2020は、その階層が明確に表現されています。しっかりとした酸のプロファイルは、充分な厳しさと堅い骨格を提供し、凝縮した果実味との完璧なバランスを作っています。この組合せは、ワインが最初から喜びを与えてくれることを意味しますが、瓶詰めから少なくとも5年程度で最高の状態になると期待出来ます。

CONCENTRATED, STRUCTURED RED WINES
ピノ・ノワールは、シャルドネよりも複雑な生き物です。壊れやすく、傷つきやすいこの品種は、世界中のブドウ栽培者が極めたいと願う品種ですが、成功する人は多くはありません。そして、赤ワインは白ワインに比べてフェノールの成熟度(果皮と種子の成熟度)がより重要視されます。したがって、赤ワインが厳しい条件下でより苦戦したのは当然といえば当然と言えるでしょう。

最高のワインは、その区画の収穫のタイミングを正しく見極めた最高のブドウ栽培者たちによって造られて来ました。8月の暖かい日差しの下で成熟が進むと、糖度は急激に上昇しますが、雨が降らないため光合成が阻害されます。つまり、古典的な意味でのブドウの熟成ではなく、ブドウの実の内部で濃縮が行われたのです。ブドウ畑の管理次第で、フェノール値の成熟と糖分の成熟のバランスをとるのが難しいことがよくあります。高アルコールを避けるために早く収穫する者もいれば、より熟したタンニンを得るために待つ者もいるということです。 アン・プリムールでは、多くのドメーヌの収穫日を記載していますが、あまり深読みしないようにご注意ください。他の多くの要素が絡んでくるので、それにこだわる必要はありません。テイスティングの結果、どちらのアプローチも有効であることが分かっています。もちろん、ワインのスタイルは異なりますが、どちらの陣営にも評価すべき点が多くあります。

スタイル的に、2020ヴィンテージの赤を他のヴィンテージと一括りに比較するのは難しいと思われます。私にとって、恐らく2017と2018年を合わせたようなワインと感じています。ブルゴーニュの典型的なプロファイルを保ちながら、赤は濃縮され、骨格がある。最も優しい醸造哲学を持つ人が造るリージョナルワインでさえ、2、3年の瓶内熟成でその恩恵を得ることが出来るでしょうし、偉大なワインの中には、この先数十年熟成させることが出来るでしょう。